溶連菌性咽頭炎・扁桃炎|子どもに多い細菌性の喉の感染症
「扁桃腺が腫れて高熱が出たら、溶連菌かも?」とご心配される方が多いように、溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)は咽頭炎・扁桃炎の主要な原因菌のひとつです。
特に若年者に多く、発熱・喉の激しい痛み・強い全身倦怠感などで突然発症し、時にイチゴ舌、全身の発疹などがみられることがあります。
風邪症状で受診される中で、数少ない抗菌療法を要するもので、適切な診断と治療法の選択が必要です。
当院では迅速検査を含めた診断と、適切な治療を行っています。喉の痛みや高熱が続く場合は、早めの受診をおすすめします。
最初にまとめ
「扁桃炎」はよく使われる用語ですが、解剖学的にも溶連菌感染症という疾患概念的にも扁桃は咽頭の一部であるため、本稿では区別する理由がない限り咽頭炎という用語を扁桃炎も含めたものとして使用しています。
感染
咽頭炎はいわゆる風邪の多くを占めるもので、大半はウイルスが原因となりますが、溶連菌性咽頭炎はA群β溶血性連鎖球菌が主な原因です。
飛沫感染で人から人へとうつり、学校や家庭などの集団内で流行することがあります。
また春〜初夏・冬に流行しやすいという季節性があります。
すべての年齢層が感染し得ますが、好発年齢は学童初期を中心とした若年者です。
しばしば保菌しているだけという事があり、これは診断の上で重要なポイントになります。
症状|突然の強い症状が典型的です
典型的には以下のような症状で、インフルエンザのように突然発症します
典型的な症状
その他に嘔吐・腹痛・皮疹などを認めることもあります。
発症はしばしばインフルエンザを思わせる急激なものとなりますが、咳が乏しいという点が見分けるポイントの一つになり得ます。
合併症
発症後まもなくの急性期の合併症と、その2〜3週間後の亜急性期の合併症があり、いずれも重要なものとなります。
急性期に重要なのは、以下の粘膜下に膿を形成する合併症です。
いずれも重篤であれば医療処置が必要になることがあります。
亜急性期(2〜3週間後)の重要な合併症は以下の2つです。
急性糸球体腎炎は腎臓内の糸球体という部位に炎症をきたすもので、
といった症状を来します。
好発年齢は学童期を中心とした小児で、溶連菌性咽頭炎と診断された場合、2〜3週間後に尿検査が行われることがしばしばあります。
原則的には予後の良い合併症です。
一方、リウマチ熱は体の様々な部位で炎症を起こし、
といった症状を来します。
特に心臓に対しては心筋だけでなく、心臓の外側を覆う心膜、心臓の内側を覆う心内膜などにも炎症を起こすことがあり、結果として心臓内の逆流防止弁を変形させて弁膜症という心疾患に至ることがあります。
本症も学童期を中心とした小児に比較的多いとされています。
診断・検査
検査
臨床現場で頻用されるのは、数分で判定できる迅速検査キットです。
ただし、「感染」の項で書いた通り、保菌状態なだけで溶連菌性咽頭炎ではない場合がまれではなく、溶連菌性咽頭炎らしさがない状況での実施は慎重であるべきでしょう。
スコアリング
溶連菌性感染症らしさを評価するものとして、Modified Centor criteriaというツールがしばしば用いられます。
これは該当する項目にチェックして、項目ごとのポイントを合算して「溶連菌感染症らしさ」を判定するものです。
Modified Centor criteria
※前半5項目は各々1pt
Modified Centor criteriaだけで精度の高い診断ができるわけではないため(溶連菌感染症患者100人あたり、3ptとなるのは30人前後と言われています)、学術団体によってこのツールに対する評価は様々ですが、検査や治療方針を決定する上で参考にされることが多いツールです。
治療
細菌感染症なので抗生剤が有用です。
特に
抗菌療法①
というペニシリン系抗生剤が耐性も少なく第一選択となります。
といったケースでは
抗菌療法①
を選択することがあります。
ただしマクロライド系は耐性率が比較的高いといわれており、あくまでペニシリン系もセフェム系も使えない場合が出番ということになります。
本症は上気道感染症において、抗菌療法を要する数少ないケースの一つですが、実は抗菌療法の最大のターゲットは上述の合併症のリスクの低減にあります。
特にリウマチ熱に対する有効性が示されており、その有効性を十分発揮するためにも適切な抗菌療法が必要となります。
アモキシシリンと皮疹
本症で第一選択薬となるアモキシシリンですが、特定の状況で皮疹を生じやすいことが知られています。
溶連菌性扁桃炎と似た扁桃炎に伝染性単核症(infectious mononucleosis、以下IM)という思春期から若年成人に好発する疾患があり、
の組み合わせがその「特定の状況」の一つです。
IMはウイルス感染症なので抗生剤は無効で本来は処方するべきではありませんが、溶連菌性咽頭炎と区別するのが難しいためアモキシシリンが処方されることがあります。
IMの好発年齢であるなど、IM/溶連菌性咽頭炎を区別するには迅速検査や血液検査が役に立ちます。
IM自体でも皮疹を生ずることがありますが、「溶連菌」「扁桃炎」などの診断を受けて抗生剤が処方され、服用開始数日後から皮疹を認めた場合はご相談下さい。
登園・登校停止について
本症は学校保健安全法に定められる登園・登校停止疾患で、
と定められています。
FAQ|溶連菌性咽頭炎・扁桃炎に関するよくあるご質問
咽頭炎・扁桃炎自体は抗菌薬を使用しなくても治ることもあると考えられています。
それでも本症に抗菌療法が重要であるのは合併症のリスクを減らす点にあります。
溶連菌性咽頭炎の合併症は重篤であったり、慢性疾患につながるものでもあるからです。
抗菌薬を開始してから24時間以上経過し、発熱や全身症状が落ち着いていれば登校・登園可能とされています。
ただし、園や学校によって独自のルールがある場合もあるため、念のため確認してください。
はい、飛沫や接触により家族内感染することがあります。特に兄弟姉妹、保育園児、年配者などは注意が必要です。
手洗い・うがい・タオルの共有を避けるなど、家庭内でも基本的な感染対策が有効です。
いいえ、イチゴ舌や猩紅熱様の皮疹は典型例であって、実際には出ないことも多くあります。
発熱・喉の痛み・咳が乏しいといった症状の組み合わせから、医師が総合的に診断します。