百日咳の検査について|~ 咳が続く、その正体は? ~
百日咳の流行報道と不安の広がり
最近、ニュースなどで「百日咳の流行」が取り上げられ、当院でも以下のようなご相談が増えています。
「この咳、もしかして百日咳でしょうか?」
「検査で百日咳かどうか、調べてもらえますか?」
特に長引く咳や、夜間に強く咳き込むような症状があると、多くの方が不安を抱かれるのも当然です。
また、乳児や高齢のご家族がいる方にとっては、周囲への感染を心配されるケースもあります。
当クリニックのHPには百日咳についてのページ がありますが、本稿では現況を踏まえて情報提供致します。
百日咳とは|どんな病気?
原因と感染経路
百日咳はボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)という細菌が主な原因で、咳やくしゃみによる飛沫感染で広がります。
症状と自然経過
時期 | 特徴 |
---|---|
潜伏期(7〜10日程度) | 自覚症状なし。 |
カタル期(約2週間持続) | 軽い咳、鼻水、微熱。風邪との見分けがつきにくい |
痙咳期(約2〜3週間持続) |
|
回復期 | 徐々に咳が落ち着くが、咳が数週間〜1か月以上持続することも。 |
治療と予防
百日咳菌は細菌で抗生剤が有効です。
また予防接種が有効で、定期接種に含まれています 。
百日咳の検査|できること・できないこと
主な検査法とその特徴
検査法 | 特徴 | 感度・特異度 | 備考 |
---|---|---|---|
LAMP法 (遺伝子検査) | 鼻咽頭ぬぐい液を用いる | 感度:約80~90% 特異度:90%以上 | 発症初期に有効 結果判定に2〜4日要する |
血清抗体検査 (IgM・IgA・PT-IgG) | 血液中の抗体を測定 | 発症からある程度経つと高い IgMは若年者で、IgAは中高年例で偽陽性率が高い | IgMは発症2週間後、IgAは発症3週間後にピークとなる PT-IgGは発症2週間後から上昇し始める |
培養検査 | 鼻咽頭の細菌培養 | 感度:50~60%程度 | 数日かかり、感度もやや低め。 |
上記3つの検査のうち、急性期の診断に有用性があるのは
となります。
IgM・IgA抗体はそれぞれ発症2週間後・3週間後に抗体価がピークに達することが知られていますが、発症後いつ頃から有用なのかといった点はあまり明らかではありません。
また、若年者ではIgM抗体が、中高年者ではIgA抗体が偽陽性になることがあるため、陽性であれ陰性であれ検査結果のみでの診断するのは危ういように思われます。
現在、事実上百日咳の検査ができない状況になっています。
というのも、昨今の流行により検査会社への依頼が急増し、処理能力を大きく超えてしまったためです。
結果が出るのに2週間もかかると痙咳期に至っており、その時点から抗生剤を使っても、咳の改善を期待できません。
したがって現状で百日咳を疑って治療方針を立てるなら、検査結果に頼らず、症状・状況・診察所見などから総合的に判断して治療を始めなければならず、“検査ができない状況”と言わざるを得ない訳です。
なおマイコプラズマやインフルエンザなどと異なり、
そのため、初診時にその場で客観的な結果を提示できる検査はありません。
百日咳の診断の難しさ|症状の経過から総合判断
百日咳は、検査だけで診断を確定するのが難しい病気です。
その理由は、以下のような検査の限界があるためです。
そのため、当院では「症状の経過」「咳の特徴」「接触歴や周囲の流行状況」などを総合的にみて判断します。
咳が続くときは早めのご相談を
咳が長引く=百日咳とは限りませんが、特に感染を広げてしまう可能性のある状況では、早めの診察が重要です。
当院では、必要に応じて検査を提案しつつ、他の病気の可能性も含めて丁寧に評価しています
次回予告
次回のコラムでは、感染後咳嗽など百日咳以外の「長引く咳の原因」について解説します。
「咳が治らないけど、検査では何も出なかった…」と感じている方も、ぜひご覧ください。