麻疹(はしか)

感染力が非常に強い発熱・発疹性感染症で、時に致死的な合併症をもたらします。 ワクチンは非常に有効で、定期接種導入に伴って国内土着株は排除状態になっていますが、近年は海外からの持ち込みに伴う発生報告が散見されます。

最初にまとめ

  • 麻疹ウイルス感染に伴い、風邪症状で発症した後に全身に皮疹を生ずる感染症です
  • 感染力はかなり強く、1人から12〜18人に感染させる力があると考えられます
  • 近年海外から持ち込み、そこから国内で二次的に伝染するケースがあります
  • ワクチンの有用性は高く、定期接種が実施されています

感染

原因ウイルス

  • 麻疹ウイルス感染症です。
    極めて感染力の強いウイルスで、1人の患者は12〜18人を感染させるとされています。

    ワクチンの普及に伴い多くの先進諸国でウイルスが排除された状態で、日本では2011年以降日本土着株による感染報告がなくなり、2015年にWHOから排除状態にあることが認定され、2021年には発生報告が1桁になりました。

    しかし近年渡航先で感染して国内に持ち込むケースによる発生数の増加が懸念されています。

感染

  • 咳やくしゃみから飛沫感染・空気感染により伝播し、眼・鼻・のどなどの粘膜から感染します
    人にうつす可能性はカタル症状出現2〜3日前から、皮疹出現3〜4日後まであります。

感染から発症

  • 潜伏期間はおよそ1〜2週間です。

症状

臨床経過

症状

発熱

  • カタル期に38.0℃前後
  • その後一旦37.0℃くらいまで低下
  • 更にその後39.5℃前後と全体で2峰性の発熱を呈する

発熱以外のカタル症状

  • くしゃみ・鼻汁・咳嗽などの風邪症状
  • 眼脂・結膜発赤などの結膜炎様症状

粘膜疹

  • カタル期終盤に、奥歯のあたりの頬粘膜に白い粒状のコプリック斑
  • 口腔粘膜の発赤
  • 口蓋部に溢血斑

皮疹

  • 前額部・耳介後部・頸部から出現
  • その後上肢・体幹部と下行性に拡大し、皮疹出現後2日ほどで下肢に及ぶ
  • 各個疹は当初は鮮紅色で扁平だが、次第に隆起・癒合して不整形の斑丘疹になる
  • その後暗赤色となり、拡大した順番で消失していく

合併症

  • 主な合併症として以下のようなものが挙げられます。
  • 中耳炎
  • 肺炎
  • 脳炎
  • SSPE(亜急性硬化性全脳炎)
  • SSPE(亜急性硬化性全脳炎)とは
  • 感染後7年程度の学童期になってから発症する致死性のの中枢神経系疾患
  • 進行性の知能障害、運動障害、錐体・錐体外路症状を呈し平均6〜9ヶ月で死亡に至る
  • 罹患者10万人当たり1人と頻度は高くないが避けるべき合併症

診断

  • 病原診断には
  • 麻疹IgM抗体
  • PCR
  • などが用いられますが、クリニック診療においては麻疹IgM抗体が用いられることが多いと思われます。
    ただし病原診断は結果判明に時間がかかります。本症は極めて感染力が強く迅速な対応が必要であり、周囲の発生状況・行動範囲などから本症を疑い
  • 特徴的な皮疹
  • 発熱
  • カタル症状
  • の3つの要件が揃えば臨床診断に至ります。

    なお、ワクチン接種の要不要の判定に用いられる麻疹IgG抗体と上記麻疹IgM抗体は異なるものです。

治療

  • 本症そのものに対しては、原則的には特異的な治療はなく対症療法を行います

抗菌療法

  • 中耳炎や細菌性肺炎を合併した場合は抗生剤による抗菌療法を行います。

予防

  • 手指衛生や一般的なマスクに有用性は期待できません。

ワクチン

  • 最も確立された予防法です。
  • 麻しん風しん混合ワクチン
  • 麻しんワクチン
  • 免疫獲得率は1回接種で93~95%以上、2回接種で97~99%以上と高く、定期接種導入後の発生報告数の推移は有効性の高さを示しています。

    国内の定期接種は
  • 1978年 麻しんワクチン1回接種開始
  • 1989〜1993年 一部でMMRワクチンによる定期接種が併行して実施
  • 2006年 麻しん風しん混合ワクチン2回接種開始
  • という変遷を経て現在に至ります。

    任意接種は麻しんワクチンの流通量が少ないためしばしば麻しん風しん混合ワクチンで代用されます。
    仮に風疹抗体価が高くても接種に特段の問題はありません。

緊急ワクチン接種・γグロブリン製剤

  • 患者と接触後3日以内にワクチン接種を行うと発症を予防できる可能性があります。
    また同様に接触後3〜5日以内にγグロブリン製剤投与を受けると発症を予防できる可能性があります。

    これらは非常に特殊な状況で行われるものです。

学校保健安全法における取り扱い

学校保健安全法における取り扱い

  • 解熱後3日を経過するまで出席停止