インフルエンザ
強い感染力で毎年のように流行を起こし、ときに激しい症状で私たちを悩ませるインフルエンザ。
誤解を恐れずに言うと、インフルエンザは「感染力も症状も強い風邪」です。
なんとなく「強くてやっかいな感染症」というイメージがありますが、ここでは冷静にインフルエンザの実態を紐解いてみましょう。
正しく理解することで、受診のしどき、治療の必要性や選び方、そして適切な予防が見えてきます。
最初にまとめ
インフルエンザとは
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって起こる急性の呼吸器感染症で、強い感染力としばしば激しくなる症状が特徴です。
毎年流行する「季節性インフルエンザ」は、主にA型とB型のインフルエンザウイルスによるものです。

インフルエンザウイルスは短期間で少しずつ遺伝子が変異するという特徴があります。
そのため、一度感染して免疫ができても、繰り返し感染することがあります。
また、流行するウイルスの型や亜型がシーズンによって異なることも、繰り返し流行が起こる一因です。
日本では通常冬を中心に流行しますが、近年は必ずしも従来の季節性通りとは限らず、秋など比較的早い時期から流行することもあります。
感染|インフルエンザはどうやってうつる?
インフルエンザは、感染した人から咳やくしゃみなどで放出された飛沫や、飛沫より粒子径が小さく、空気中に長く浮遊するエアロゾルなどを吸い込むことで感染します。
また、ウイルスが付着した手で口や鼻などに触れることによる接触感染も起こります。

潜伏期間は一般に1~3日程度と短く、比較的急激に強い症状が現れる傾向があります。
なぜ流行しやすい?
インフルエンザウイルスそのものの感染性が、他の呼吸器ウイルスと比べて常に突出して高いというわけではありません。
しかし、以下のような複合的な理由で流行を引き起こしやすくなっています。
人にうつすのはいつからいつまで?
インフルエンザは、一般に発症の前日頃から周囲に感染させる可能性があり、発症後の最初の3日間は特に感染性が高いと考えられています。
その後、感染性は徐々に低下しますが、発症後5~7日程度までは他人にうつす可能性があります。
なお、乳幼児や免疫機能が低下している方などでは、さらに長期間ウイルスを排出することがあります。
症状|「高熱が出る」とは限りません

冒頭で「感染力も症状も強い風邪」と表現した通り、インフルエンザの主な症状は、一般的な風邪と似ています。
ただし、咳を伴う傾向が強いのと、特に小児では消化器症状の出現頻度が高めの傾向があります。
また、一般的な風邪は、例えば「のどの痛みで始まって、、症状がきつく、種々の症状が段階的にではなく一気に生じる傾向があります。
一方で、咳どころか、発熱すらない方もおられ、症状のみでインフルエンザであるか否かを断定することは出来ません。
合併症|多くは自然に回復しますが、重症化することもあります
インフルエンザは症状が強い傾向があるものの、大半は一般的な風邪と同様に、数日から1週間程度で自然に回復します。
一方で、肺炎などの合併症を起こして重症化することがある点には留意が必要です。
特に高齢者は警戒すべきで、インフルエンザウイルスによる肺炎や、続発性の細菌性肺炎を合併することもあります。
また、小児では、中耳炎などを合併することがあるほか、頻度は高くありませんが、インフルエンザ脳症にも注意が必要です。
意識障害が続く、けいれんを起こす、呼びかけへの反応が悪いなどの場合には、速やかな受診が必要です。
高齢者、乳幼児、妊娠中の方、基礎疾患のある方などでは、インフルエンザそのものの症状だけでなく、こうした合併症や重症化にも注意して経過をみる必要があります。
異常行動について
2007年頃に、抗インフルエンザ薬(タミフル®)を服用後に、異常行動を起こして転落するというニュースがセンセーショナルに報じられました。
ニュースに対する世間の反応は大きく、厚生労働省はリスクが高いと思われた十代へ対するタミフル®の処方を差し控える通達を出すほどでした。
その後、タミフルを含む抗インフルエンザ薬と異常行動との因果関係について慎重な検討が重ねられ、
などが明らかになりました。
その結果、タミフルの処方を差し控える合理的な理由はないという結論に至り、通達は撤回されました。
通達の撤回は、当初のセンセーショナルな報道とは対照的に十分には報じられず、報道から約20年が経った今も、親御さんから懸念を示されることがあります。
異常行動のメカニズムは十分に解明されていませんが、最も重要な事実は、
という点です。
これは決して稀なことではなく、当クリニックの診療でも、「どこか様子がおかしかった」といった軽微なお話から、「家から飛び出してしまった」といった危険度が高いお話まで伺うことがあります。
下記のような条件・状態が当てはまる場合は、施錠・階下への移動などをご検討頂くのがいいでしょう。
異常行動が起きやすい条件
重大事例が多かった条件
診断・検査|検査だけで決まるわけではありません

インフルエンザの診断には、上記のような情報が有用です。
インフルエンザが疑われた場合、迅速抗原検査は日常的におこわなれるものですが、症状・診察所見・流行状況からインフルエンザが強く疑われる場合には、必ずしも迅速抗原検査を行う必要はありません。
迅速抗原検査は有用な診断手段ですが、実際インフルエンザを発症しているにもかかわらず、「陰性」という結果になることが稀ではありません。これを「偽陰性」といいます。
特に発症直後はウイルス量が少なく、偽陰性になりやすい傾向があります。発症から時間が経過するとウイルスが増殖して検出されやすくなりますが、十分に時間が経過していても偽陰性となることがあります。
したがって、「検査が陰性だからインフルエンザではない」と短絡的に診断するのは避けるべきです。
一方、流行期において迅速抗原検査は特異度が高く、陽性であればインフルエンザと診断する有力な根拠になります。
治療|抗インフルエンザ薬は必要?
抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑制することで、発熱などの症状が軽快するまでの時間の短縮や、重症化・死亡・入院リスクの低減が期待されます。

症状が強く出ている場合や、高齢者・基礎疾患がある方・妊婦など、重症化リスクがある場合は、服薬のメリットがあると言えます。
一方で、基礎疾患がなく、軽症ならば、服薬によるメリットは乏しく、抗インフルエンザ薬を服薬しないという判断が合理的と言えるシチュエーションもあります。
なお、発症から48時間程度で、自身の免疫系の働きが十分高まるため、抗インフルエンザ薬を服用するメリットが無くなると考えられています。

抗インフルエンザ薬の種類
現在、抗インフルエンザ薬の選択肢は、タミフル®を筆頭に複数あります。
タミフル®とリレンザ®は、グローバルでも使用実績が豊富な薬で、当院としてはこれらを抗インフルエンザ薬の基本的な薬剤として位置づけています。
タミフル®の剤形はカプセル/粉薬、リレンザは吸入剤です。
タミフル®は、吐き気といった消化器系副作用の頻度がやや高めである点に留意が必要で、リレンザ®は吸入が適切にできるかどうかに留意が必要です。
ゾフルーザ®は2025年あたりから使用されることが増えてきました。
12歳以上の、特にB型インフルエンザにおいては、感染拡大の抑制や症状の短縮を示唆するデータが有る一方、特に幼少児では耐性ウイルスの出現頻度が高いことが示されているなど、「インフルエンザならゾフルーザ」という使い方には、異議を唱える感染症医も少なくないようです。
特に12歳未満のA型インフルエンザでファーストチョイスにするべきではないように思われます。
イナビル®は吸入回数が1回で済むというのが最大の特徴です。
| 名称 | 長所 | 短所 | グローバルでの評価・使用実績 |
|---|---|---|---|
| 💊タミフル | ▷ 小児から成人まで使用実績が豊富 ▷ 内服で確実に投与できる ▷ 副作用出現時に中止が可能 | ▶ 5日間内服が必要 ▶ 吐き気など胃腸症状が出ることがある | 世界的に最も使用実績が豊富。 CDC・WHOなど主要ガイドラインで標準的治療薬として位置づけられている。 |
| 💊リレンザ | ▷ 吸入薬で吐き気などの副作用が比較的少ない ▷ 耐性ウイルスの出現が少ない | ▶ 吸入操作が必要(小児や高齢者では困難なことあり) ▶ 喘息など気道疾患では注意 | 欧米でも承認・使用実績あり。 標準的ノイラミニダーゼ阻害薬の一つとして位置づけられている。 |
| 💊イナビル | ▷ 1回吸入で治療完結 ▷ 服薬アドヒアランスが良い | ▶ 吸入操作が必要 ▶ 小児では確実に吸えない場合あり | 主に日本・東アジアで使用。 欧米ではほとんど普及していない(国際的な使用実績は限定的)。 |
| ▷ 1回内服で治療完結 ▷ ウイルス減少が早い ▷ 家庭内感染抑制の可能性が示唆 | ▶ 若年小児で耐性変異出現が報告 ▶ 薬価はやや高め | 米国・欧州でも承認済み。 有効性は認められているが、第一選択として一律推奨という位置づけではなく、選択肢の一つとされることが多い。 |
登園・登校、仕事への復帰|いつから外出できる?
インフルエンザは解熱・軽快しても、しばらく周囲を感染させるリスクがあるため、学生や園児には所定の登園・登校停止期間が、「学校保健安全法」や「保育所における感染症対策ガイドライン」によって定められています。

一方、成人には、学校のような一律の法的な出勤停止期間はありません。
近年は学生・園児向けルールに準じたローカルルールを運用していることが少なくないようですが、そういったルールがない場合は、
といったあたりが大まかな判断基準として、妥当だと思われます
予防|感染を防ぐ、重症化を防ぐ
インフルエンザの予防の軸は、
の2つです。
感染する機会を減らすこと
自分にたどり着くウイルスを、少しでも減らすという考え方が肝要です。

また、発症前から周囲を感染させるようになるため、普段から人が多く集まる場所ではマスクの着用を励行し、家庭・学校・職場で感染を広げないことも大切です。
感染した場合の発症や重症化を防ぐこと
特に流行期は、感染予防策を講じても、インフルエンザウイルスの体内への侵入を完全に防ぐことは困難です。
そのため、「もし感染したら」ということろまで、対策を講じておくべきあり、その役割を担うのがワクチンです。
ワクチンが未接種だと、インフルエンザウイルスに感染してから、インフルエンザウイルスに対する免疫を整え始めます。
体制が整うには時間を要するため、その間にインフルエンザウイルスは増殖し、発症や重症化のリスクが上昇します。
インフルエンザワクチンの効果は理想的とまでは言えませんが、
を図る有用な手段であることは間違いありません。
当院では、
による予防接種を行っています。
ワクチンの種類、接種時期、接種回数など、詳細は、
のページで詳しく解説しています。
FAQ|インフルエンザについてよくある質問<
検査することはできますが、発症して間もない時期にはウイルス量が少なく、インフルエンザに感染していても陰性となることがあります。
一方で、「発症から12時間たつまで検査できない」という決まりがあるわけではありません。症状や発症からの時間、周囲の流行状況などを踏まえて、検査を行うかどうかを判断します。
いいえ。特に発症早期には、インフルエンザでも迅速検査が陰性になることがあります。
検査結果は診断材料のひとつであり、症状、経過、周囲の流行状況なども合わせて判断します。
必ずしもそうではありません。もともと健康な方の多くは、抗インフルエンザ薬を使用しなくても自然に回復します。
一方、重症化リスクが高い方や症状が強い場合など、積極的に治療した方がよいケースもあります。年齢、基礎疾患、症状、発症からの時間などを踏まえて判断します。
抗インフルエンザ薬には、感染者と濃厚に接触した方に対して予防目的で使用できるものがあります。
ただし、同居している家族全員に一律に予防投与するものではありません。高齢者や基礎疾患のある方など、感染した場合の重症化リスクや接触状況などを考慮して判断します。
なお、予防目的での抗インフルエンザ薬の使用は、原則として健康保険の適用外となります。
はい。インフルエンザワクチンは感染や発症を完全に防ぐものではないため、接種していてもインフルエンザを発症することがあります。
「接種したのにかかった=ワクチンが効かなかった」と単純に判断することはできません。ワクチンには発症する可能性を減らし、特に重症化を防ぐ効果が期待されています。


