インフルエンザ

例年冬に流行することでお馴染みのインフルエンザ。発熱・倦怠感・節々の痛みなど強い症状で患者さんを困らせます。また強い感染力で広まりやすく、社会活動にも無視できない影響を与えます。知っているようで実は知らない。そんな本症についてわかりやすく解説します。

最初にまとめ

  • インフルエンザによる「強いカゼ」です
  • 発症直後の診断が難しい場合もあります
  • 抗インフルエンザ薬が治療の選択肢になります
  • ワクチンには一定の予防効果があります

感染

流行を示すインフルエンザウイルスにはA型、B型があります。

A型、B型はさらに細かく分類されて1シーズン中にこれらのうちの1つ、ないし複数が流行します。
インフルエンザウイルスには短期間で遺伝子変異するというやっかいな特徴がある
ため免疫の監視から逃れやすく、毎年流行します。

主に飛沫感染によって感染し、1〜3日間の潜伏期間を経て発症します。
感染者は発症1日前〜解熱2日後程度の間、他者にうつす可能性があります。
1人の感染者は新たに2人感染させる可能性があると考えられています。

ポイント

  • 短い期間で遺伝子変異を起こしやすく、免疫の監視から逃れやすい特性があります
  • その結果、毎年流行します
  • 主に飛沫感染します
  • 発症1日前〜解熱2日後の間、人にうつす可能性があります

もう少し詳しく

遺伝子変異には少し起きる連続抗原変異と、大きく起きる不連続抗原変異があります。

不連続抗原変異後のウイルスは大流行を起こして甚大な被害をもたらします。

  • 1918年 スペイン風邪 ➝ 4,000〜5,000万人死亡
  • 1957年 アジア風邪 ➝ 200万人死亡
  • 1968年 香港風邪 ➝ 100万人死亡
  • 2009年 新型インフルエンザ ➝ 1.5万人死亡

2009年のいわゆる新型インフルエンザは比較的記憶に新しいところです。

症状

基本的にはカゼと同じくはなみず・のどの痛み・咳などを認め、 発熱・頭痛・関節痛・倦怠感といった症状がより強く出る傾向があります。
またカゼがのどの痛みや鼻水などから症状が徐々に増えていくのに対して、インフルエンザは 高熱(38.0℃以上)・頭痛・関節痛・倦怠感 が急激に生ずる傾向があります。

一方「かくれインフルエンザ」と表現されるように、一般的なカゼと同程度の症状しか示さない事もまれではありません。

合併症として高齢者や基礎疾患をお持ちの方を中心とした肺炎や、乳幼児を中心とした脳症が知られています。
また後述の通り異常行動を認めることがあります。

ポイント

  • 突然の高熱・頭痛・関節痛・倦怠感で発症します
  • 鼻汁、咳嗽などの上気道炎症状が続きます
  • 1週間程度で軽快します
  • 発症後間もない10代には異常行動のリスクがあります

診断

症状、身体所見、流行状況、インフルエンザ抗原迅速検査などから総合的に診断します。

インフルエンザ抗原迅速検査の精度は発症後24〜48時間かけて向上し、発症後間もないと不十分である感が否めません。
昼過ぎから発症してその日の夕方に検査すべきかは慎重に検討すべきでしょう。

陽性という検査結果は発症後間もなくから一貫して「インフルエンザですね」とお伝えできるのですが、陰性という検査結果は発症後間もないと「明日検査すると陽性になるかもしれません」と言わざるを得ないことがあります。
少なくとも発症当日に「検査陰性でしたよ、インフルエンザじゃないですね〜!」と言うのは控えた方がいいように思われます。

ポイント

  • 診断には抗原検査が有用です
  • ただし発症当日の「陰性」の解釈は慎重に行う必要があります

治療

治療は対症療法と抗ウイルス療法からなります。
対症療法は症状の緩和に、抗ウイルス療法はインフルエンザウイルスの増加の抑制を図ります。

抗ウイルス療法としてタミフルが有名ですが、服用の最大のメリットは発熱期間の短縮です。
また、作用機序的に発症後48時間までに服用を開始するべきとされています。

ポイント

  • 抗ウイルス療法は発症後48時間以内に始めます

もう少し詳しく

かつてタミフル服用後の異常行動が報告され、10代に対するタミフル等の処方差し控えの通達が厚労省から出されましたが、その後の調査・研究で抗インフルエンザ薬と異常行動の関連を支持する結果は得られず、2018年に処方差し控えの通達は撤回されました。

異常行動について最も大事なのは

  • インフルエンザ感染症ではタミフル等の服用の有無に関わらず命に関わる異常行動をきたすことがある

という点につきます。

  • 10代
  • 発症後48時間以内

のいずれもが該当する場合に多いことが知られており、当てはまる場合は十二分にご留意下さい。

予防

インフルエンザにかかるとインフルエンザウイルスに対する抗体が産生され、産生された抗体がウイルスを抑えにかかります。
インフルエンザワクチンはインフルエンザウイルスの「部品」を接種することであらかじめ抗体産生しておき、いざ感染した時により早い収束を図るものです。

接種すると被接種者だけでなく、周りの非接種者のリスクも低減します。

なお、抗体産生は年齢差や個体差といった様々な要因により得られる効果は一定ではありません。
しかし様々なデータが発症リスク、重症化リスク、死亡リスクを低減することを示しています。

ポイント

  • ワクチン接種は、あらかじめ抗体を作っておいて実際のインフルエンザウイルスの侵入に備えるものです

出席停止期間

インフルエンザは学校保健安全法によって下記のように出席停止期間が定められています(原文のままです)。 

図示すると以下のようになります。

法令文の「発症」「〜した後○日を経過」という表記の解釈に注意が必要です。
「発症」は必ずしも発熱ではありません。
「〜した後○日を経過」は「〜した日」を0日目としてカウントします。

なお、社会人について自宅療養を定めた法律はありません。